ぽかぽか

起業のコツ、投資の考え方、FIRE生活

『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』cis を読んだ感想

元日にいきなりこの本が届いた。どうも年末に酔っぱらいながらスマホで何か読んでいたら、この本を誰かが推奨していたのでアマゾンで注文してしまっていたらしい。一気に読んでしまったが、株やFXのトレードで稼げないか考えている人にとっては得るものがとても大きい本だと思う。当然だが儲けられる手法が紹介されているわけではない。相場とはどのようなものなのか、その全体像に対する適切な見通しを持つ手助けを、この本の中に書かれていることがしてくれると思う。

 

一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学

一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学

 

 
著者のcis氏は株のトレードで230億円を稼いだらしく、僕は知らなかったがネットではかなり有名人のようだ。トレード手法は主として裁量のデイトレードが中心らしい。

本書冒頭は以下の文章から始まる。

子どものころから何も変わっていない気がする。その一方で、ずいぶん遠くまで来た気もする。子どもが3人もできて、普通に大人になった気もするし、まるで大人になっていない気もする。


230億円も稼いだのだから、彼は相当遠くまで来たはずだし、かなりの「大人」になったはずだ。一方で何も変わっていない気がするというのは、彼が子供のころから自身が最も得意とすることを追求し続けてきた結果がトレードでの成功であったからだろう。とても秀逸な書き出しで、大変重要なことを示唆している。

本書中、子供のころに駄菓子屋に置いてあったお菓子のくじ引を使って小遣いを稼いでいたエピソードが出てくる。30円で数字が書かれたクジを引き、一番の当たりがでたら200円分の買い物券がもらえるというものだ。ある時、彼はくじ引き2箱分を全部買って、どの数字が当たるようになっているかを調べたそうだ。そこから変換率や期待値を計算して大きく当たる確率の高い数字をつきとめ、実際に当たったら買い物券を友だちに売ってお金を稼いでいたそうだ。つまり、仕組みを観察してよく理解し、数学的に期待値の高い攻略法を考え、それを素早く実行する。生まれながらにして彼はそうしたことが得意だったし、何よりも大好きだったのだ。

しかしこれをトレードで行うのは当然ながら簡単なことではない。本書に書かれていることを丹念に読めば、いかに広範な情報をcis氏が効果的に頭の中で処理し、事前に用意されたシナリオを当てはめてトレードを実行しているのかが、朧げながらに理解できる。以前BNF氏(ジェイコム誤発注事件で有名になったトレーダー)が自分のトレード手法について語っているのを読んだことがあるが、相当広範な情報を頭の中で処理しているらしいということが読み取れた。その点では共通している。

トレードである程度資産ができてからは、cis氏は会社を作って大学時代の友人を5人を雇用し、給与を払いつつ、トレード手法を教授した上、1000万円の資金を与えてトレードさせるということもやっていたそうだ。これは伝説のトレーダー、リチャード・デニスと友人のウィリアム・エックハートによる「タートルズ」と同じ試みだ。そういえば、タートルズのリチャード・デニスもcis氏と同じトレンドフォローの手法だった。

 
タートルズについて知るにはこの本がお勧め:

伝説のトレーダー集団 タートル流投資の魔術

伝説のトレーダー集団 タートル流投資の魔術

 

 

cis氏はタートルズを育てたリチャード・デニスと同じように、自分が手法を伝授すれば友人たちも大きく儲けられるはずだと思っていたそうだ。ところが結果は全く違った。友人5人のうち、資金をトレードで増やすことができたのは一人だけ。しかも2年で1000万円が2400万円になっただけで、これはcis氏のパフォーマンスから考えると成功とは言えない。その他の4人のうち3人はややプラスかややマイナス、残りの1人は数百万円の損失を出したそうで、トータルではほぼ収益なしという完全な失敗だった。

トレンドフォローを教えても、実際に実行するには勇気が必要で、本能が妨げになってできないとcis氏は書いている。タートルズに関してリチャード・デニスも確か同じようなことを言っていたのを読んだことがある。


友人たちは全員cis氏の目から見て優秀な人達だったそうで、cis氏自身が直接やり方を伝授してもこの結果だったということがトレードの難しさを如実に表している。端的に言って、自分でトレードが相当得意で好きだという感覚が持てないない人は、相場における裁量トレードでお金が稼げるなどとゆめゆめ思うべきではないということだと思う。

僕が10年以上前に裁量トレードは諦めて、システムトレードに切り替えたのはそういう認識を持ったためだった。そして、僕も師匠をみつけて直接システムトレードの手法を教わることになったのだが、その話はまた別の機会に書きたいと思っている。

富というのは、人間が綱引きしている状態を数値化したものだと思う。激しいインフレが起きて円の価値が落ちない限り、自分の持っている資産は維持されると考えているなら、それは誤り。

たとえば仮想通貨などの新しい価値が生まれてくれば、自分の持っている資産は自然に薄まっていく。

本書後半に書かれていたこの部分はとても興味深い。この見方は正しくないと考える人は多いと思うが、cis氏がどのように富というものを捉えているかが垣間見えて興味深い。

新年に読むのに相応しい本であったかどうかは疑問だが、他にもcis氏の見方を知ることができる話が多数登場し、とても有益な本だと思う。トレードや投資に興味のある人には大変おすすめです。

 

一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学

一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学

 

 

 (追記)

つい10日ほど前に発売された本なのに、アマゾンではもう76件もレビューがついていて驚いた。トレードだけでなく書籍の売上も驚異的なものになっているらしい。「具体的な手法が書いてない」と不満げなレビューもあるようだが、そんなものが書かれているはずもなく、仮に書いてあったとしたらその手法はすぐに広まって使えなくなる。そのようなものを期待している時点で、トレーダーとし成功できる見込みは欠片もないと思う。もっと本質的なことを読み取ることができれば、間違いなく得るところが大きい一冊だと思う。